闇に目が慣れてきた。


望空ちゃんの肌がうっすら雷光に透ける。


服に隠れていないところ。

そのわずかな部分に目が留まってしまった。



傷だ。


自分の爪で痛めつけたような引っかき傷。



ひとつだけじゃない。

腕、首、頬、足……いたるところに刻まれていた。


浅い傷痕ばかり。


よけいに痛々しかった。

生々しかった。


……つらかった。



だって……そんな、傷。


死にたいのに生きなきゃいけないって、もがき苦しんでるみたいで。




「の、あちゃ……っ、望空ちゃん!」




すくんでいた足を無理やり動かし、写真を踏まないように駆け寄った。望空ちゃんのそばでひざをつき、顔を覗き込む。



きらきらと澄んでいた黒い瞳は、うつろにぼやけていて。

細い線が何重にも残った顔は、青緑色。

乾燥しきった唇には血がにじんでる。




「生きなくちゃいけない、って、覚悟したばっかりじゃないか……っ」




どうして、ねぇ、神様。

俺はあなたを恨みたくはないのに。




「……生き、な、くちゃ」




しぼりとられたようなソプラノが降った。


しゃべった。

望空ちゃん、今、たしかに……!




「死な、ない。シ、ね、ない。イきる。生きないと。生きるしか、ない」




俺に、じゃない。

自分自身に言い聞かせてる。


あの覚悟だけが望空ちゃんの心臓を支えてる。


“まじない”でもあり
“のろい”でもあるかのように。




「望空ちゃん! 望空ちゃん!!」




華奢な肩を叩き、呼びかける。


俺の濡れた髪から望空ちゃんの足首に雨粒がポタリ、したたる。

足首にもついた傷にしみ込んでいく。