負け犬の傷に、キス



きつい香水のにおいをジャスミンの香りが包んでいく。

少しずつ和らいだ香りは、とても優しい。




「辻先生の笑顔に、言葉に、何度も助けられました。きっとわたしだけじゃない。相談をした人たちみんなそうだと思います」


「そんな、こと……」


「あるんですよ。辻先生自身に救われたから……わたしも辻先生の味方になりたい、って。将来は辻先生みたいになれたらなって、思えたんですよ」




ナイフを持つ手が打ち震えてる。

それを夕日ちゃんは肌で感じてるのだろう。




「後悔、してませんか?」


「し、してな……」


「ずっと苦しんでるのに、さらに苦しみを増やしてませんか?」




被害者は夕日ちゃんで、加害者はメガネの女性。


そのはずなのに……おかしいな。

どちらも痛そうだよ。




「自分で自分を苦しませないでください」




ナイフの震えが大きくなる。

握力の弱まった手がブレて、刃先が首筋に当たった。




「いっ、」


「夕日ちゃん……!」




じわり、と細い首から朱色があふれる。


ひとすじ垂れた鮮血に、誰よりもメガネの女性が心を乱していた。




「あ……あ……っ」


「……辻先生?」


「……っ、嫌……!!」




刃先にしみた血に女性は凍りつき、衝動的にナイフを振り払った。


力のない手のひらから抜けたナイフは宙に投げられる。



危ない!

夕日ちゃんと女性のほうにナイフが落ちる!