負け犬の傷に、キス




「さっきまであんなに往生際が悪かったのに」



薫は底意地が悪そうに含み笑いする。




「思ってたよりも“負け犬”さんたちは有能だったみたいだからね」


「売人さんは思ったよりもろいんだね」


「そうよ?女はもろくて弱いんだから優しくしてくれなきゃ」


「悪いけど男だとか女だとか特別こだわってないんで。あんたが売人って認めただけで優しくする理由はもうどこにもないよ」


「……あら、誘導尋問だったの?」


「聞かなくてもわかってたけど」




皮肉を皮肉で返した薫から殺気を感じる。

それすらもいつも通りな気がした。



俺、気張りすぎてたな。


冷静になる……のは無理かもだけど頭に血が上りすぎたら守れるものも守れない。



静かに息を吐きながら声色を沈めた。



「夕日ちゃんを、返せ」



あのナイフで傷がつく前に。



「あたしも言ったはずよ。“薬”から手を引いたら返してあげるって」



女性の左手の薬指についた指輪とナイフの刃がぎらつく。


今は観念する気はない、か。




「殺るか?」


「まだだ。まだ……もうちょっと説得して……」


「その前に殺られたら終わりだぞ」




耳打ちしてきた柏はすでに戦闘モード。


柏の言ってることもわかる。

わかってる、けど……。



拳を振るうのは最後の手段にしたいんだよ。


それは俺の甘さなのかな。