負け犬の傷に、キス



ガチャリ、とドアノブが回った。


あ。

開く……!




「ご丁寧にありがとう」




ドアチェーンの許す限りだけ開かれた扉から、女性の顔が覗いた。


黒縁メガネに、暗めの栗色の長髪。

知的そうなきれいな人。


とてもじゃないが売人には見えなかった。




「でも弁償なんていいのよ。謝ってくれただけで十分よ」




優しく、安らぐような香りがする。


そこにうっすら混ざる
ほんのり甘い、さわやかな香り。



この香りは……。




「気にしないでね」


「夕日ちゃん、いますよね」


「……え?」




閉ざされかけた扉がピタリと止まる。

一瞬メガネの女性がうろたえたのを見過ごさなかった。




「この香り、夕日ちゃんの香りです」


「香り? ……ああ、香水のことかしら。今日はつけすぎたみたいで……」


「違います。あなたの香りのほうじゃなくて、この、ジャスミンだったけな……。その、柔軟剤の香りがするんです! それは夕日ちゃんからする香りで……!」




ここから夕日ちゃんの香りがするということは……間違いない。



夕日ちゃんがいる。


この女性が犯人だ!




「……ビーヤン、聞いた?」


「きーた」


「柔軟剤の香りだって。変態か」


「キモ」


「おいぃぃ!! 今いいだろそれは!!」




薫と柏につっこまれなくても自分でもちょっと思ってたよ! 夕日ちゃんには内緒にしておいてくれよな!