負け犬の傷に、キス



他の2か所にいないとなると……おそらく夕日ちゃんはここにいる。


場違いでも売人がどんな正体でもいい。

緊張とか不安とか全部強さに変えてやる。



エレベーターが止まった。

音もなくスライドされた扉の奥には、アイボリーとブラウンで統一された空間が広がっている。




「エレベーター側から2つ目の部屋です」




博くんに案内され、ほこりひとつない廊下を通る。


問題の部屋の前。

インターホンに伸ばした指が震えていた。



――ピンポーン。



聞きなじみのあるその音がいやにクリアに響く。


心臓が口から出そう。




『えっと……どちらさまかしら』




インターホンから応答がきた。


無視されなかった! よかった!

けど……。


意外にも高い声で少し混乱する。


野太い声を想像していた。



女の人……?




「あ、あの、俺たち、その……」




ど、ど、どうしよう!

うまい口実が出てこない!


少しどころじゃなくものすごく混乱していたらしい。




「ゆ、夕日ちゃんを……!」


「すみません!! あなたの車に傷をつけてしまったみたいなんです。そのことを謝りたくて……。あっ、もちろん弁償します!」




あわてまくっていたら、ユキが助け船を出してくれた。


わあ……いつものユキじゃないみたい。

役者さんなだけあって演技うまいな。