負け犬の傷に、キス



黒縁メガネの奥の瞳が三日月型になる。


自分でもわかる。

今のわたし、憑き物が落ちたみたいに晴れ晴れしてること。




「よければ大丈夫になるまでのことを教えてくれない? 津上さんの話が聞きたいわ」




イスに座った辻先生は隣のイスをぽんぽんと叩いた。


ふわりと香りに誘われる。


アイスティーの……?

ううん、違う。
これは……花の、香り。


辻先生から漂ってくる。香水だろうか。


今までかいだことはない。それとも消毒液のにおいが強くて気づかなかっただけ?




「津上さん?」




わ、しまった!

香りにぼうっとしてた!


あまりにいい香りでつい。




「辻先生、香水つけてるんですか?」


「ええ、つけてるわよ。ちゃんと毎朝、首とくるぶしにね。どうして?」


「優しい香りだなあって思って。辻先生にぴったり」


「少しつけすぎたかしら……。でもありがとう。嬉しいわ」




わたしもイスに腰かけ辻先生と並ぶと、自分の子どもっぽさが際立つ。


美人で、おしとやかで。

わたしも大人になったら……なんて。



辻先生の左手の薬指には今日もきれいなプラチナが光っていて、胸がチクリとした。




「それで、どう? お守りは渡したの?」


「あ……はい。渡しました……けど、役に立てたかどうかは……」


「きっと役に立ったわよ。恋人に渡したのよね?」