負け犬の傷に、キス



男たちは悪役さながらの形相で一斉に迫ってきた。


うわっ! やっぱ実力行使かよ!



女子をかばいながら右ストレートを避け

キックとエルボーをかわし

女子に忍び寄る2人から距離を取る。



こうやって逃げながらあっちの体力が尽きるのを待つしかない。


早くHPゼロにならないかな。



あまりにも攻撃が当たらず、男たちはイライラを募らせていく。




「“負け犬”ごときが!!」




チクチク刺さる殺気。
単調になる攻め方。


真横から拳がぶつかりにくる。


背を反らして軽々とよける。



男のギョロリと開いた瞳孔が、やけに鮮明に見えた。



自然に、ごくごく自然に

右の拳をぐっと力ませ、振る――寸前


瞼の裏に朱色がちらついた。



……っちがう。ダメだ。



我に返り、手の力を抜く。


俺は……傷つけるのは……。



やり返しちゃいけないんだ。




「おりゃあああ!!」


「っ!」




今度は逆サイドから勢いよく腕が伸びてきていた。


しまった! 反応が遅れた!

やばい……!



――ドスッ!!



鈍い音が響いた。


倒れたのは……相手のほう。



「!?!?」



え!? やったの俺じゃないよ!?


助太刀してくれたのは、




「お兄さんを傷つけないで!」


「えええ!?」




昨日助けた小学生の女の子……で間違いないよな?