「“無色”だっけ?」
「そうそう、それ」
むしょく?
無職? 無色?
「どういううわさ?」
「名無しのグループのうわさ」
「名無し?」
薫は俺と柏の分も紅茶を淹れながら、うわさについて話す。
「その名の通り、名前がないんだよ。だからふつうに“名無し”とか、“無色”や“匿名”とか、好き勝手呼んでるらしいよ」
「ふーん。その中で薫が気に入ったのが“無色”だったんだ」
「ピンポン、正解~」
「その“無色”がどうしたの?」
「“無色”が動くと必ずどこかの族がつぶされてるんだって。怖いよね」
そうボヤく薫の表情は、微塵も恐れていない。
紅茶の入ったティーカップがふたつ、ローテーブルに置かれた。
俺は白のソファーに腰かけ、カップに口をつける。
「族をつぶしたのが本当に“無色”なのかも怪しいけど、つぶされた時期にタイミングよく毎回“無色”のうわさが流れるらしいから、ちょっと作為的なものを感じるよね」
「メンバー構成、たまり場……そういった情報も一切ねぇみてぇだぜ」
「目的や理由があるのか、無差別なのか……。無差別だったら嫌だな〜」
「あくまでうわさだけどな」
柏は紅茶にフーフー息を吹きかけ、少し冷ましてから飲んだ。
「うわさでも……俺たち双雷も気をつけたほうがいい、よね」
厄介ごとも面倒ごともごめんだ。
こうやって平和にお茶を飲んでいたい。
桜の淡い匂いが、右の足首をピリリと刺激した。



