どんな、形でも……
わたしの思いが少しでも届くなら。
「……ありがとう、ございます」
ゆっくり箸を口元まで上げていった。
宵の作ったたまご焼き……甘くておいしい。
「応援してるわ。……あたしは頑張れなかったから」
初めて、辻先生の弱音を聞いた。
辻先生は寂しそうに眉を下げる。
「だから、離婚したのよ」
「え……」
信じられない。
辻先生は見た目も性格もすてきなのに。
無意識に辻先生の左手の薬指を見つめる。
そこにはいつも通り、プラチナの指輪が飾られていた。
「これは外したくなくて勝手につけてるのよ。今も頑張っていたら、瀬戸川のままだったかもしれないわね」
わたしの視線に小さく苦笑した。
瀬戸川という名前は結婚していたときの……?
「津上さんはあたしみたいな大人にならないでね。後悔し続けてほしくないの」
「辻先生……」
「どうかあきらめずに頑張って」
首をどちらに振ればいいのかわからなかった。
わたしは医者になりたいわけでも、なりたくないわけでもない。
でも大人になったら
辻先生みたいに誰かに寄り添える存在になりたい。
そう伝えたら困らせてしまう気がした。



