辻先生は近くのイスを引いて座るよう促した。

お礼を言いながらそこに腰かける。



お弁当のふたを開け、たまご焼きを選んだ。


が、箸が持ち上がらない。

食欲がない。




「辻先生……また相談に乗ってくれますか?」


「ええ、もちろん」


「わたしには今、頑張りたいことがあるんです。でも、うまくいかなくて……」




草壁くんからの手紙を見つけたとき

驚いたと同時に胸が締め付けられた。



お父さんにひどい仕打ちをされたのに、それでもまだわたしのために頑張ろうとしてくれてる。


だからわたしも、もう一回頑張ってみようって思えた。



だけど。




「津上さんが頑張りたいことは、とても大変で難しいことなのね」


「はい……」




いい子でいたら傷つかなかった。

両親の期待に応えて真面目に過ごせば、こんな苦しさを味わうこともなかった。



だけど

何も変わらないままだ。




「挫折してもなお頑張れるのはすごいことよ」


「…………」


「たとえうまくいかなくても、頑張ること自体に意味があるとあたしは思うわ。どんな形でも報われるといいわね」




ポンポン、と肩の上で辻先生の手がはずんだ。