*
俺が薫と柏と知り合ったのは
双雷に入って少ししてからだった。
ほんの2、3年前。
同じ年ごろで甘いものが好き。
仲良くなったのはそんな単純な理由だった。
よく一緒にいるようになってから、薫と柏が義理の兄弟だと知った。
たしかあれは、ケンカをふっかけられた帰り。
俺が『ふたりって似てないよな』となんとなく言ったら
『そりゃあね』『そりゃあな』なんてあっさり教えてくれたんだっけ。
『小さかったころ、ホームレスだったビーヤンを見つけて、飼った……いや、 養子に引き取ったの。
なんでも元々孤児で施設に入ってたんだけど、性に合わなかったらしくて逃げ出したんだって。それで家なき子として野良犬みたいに生活してたところに……まあ、その、出会っちゃったわけよ』
ケンカに勝ったごほうびとして、繁華街のクレープ屋に寄ったとき、ふたりの話は語られた。
その縁のあるお店が、今では行きつけになってるのは感慨深い。
すり傷やアザなんか気にせずに、柏はクレープ3つを無心でばくばく食べていた。
それを横目に、薫は困ったようにほころんだ。
『ちょうど犬飼いたかったしいっか~、って』
ペット感覚で人を拾うってどうよ。
金持ちの感性ぶっとんでないか?
って、つっこみたかったけどしなかった。
薫と柏の関係が心地よさそうだったから。
『初めこそ従ってくれてたんだけどね~……。最近は反抗期なのかあんまり言うことを聞いてくれなくて。
あ、でも、キユーが本気でストップかけるとおとなしくなるよね。こいつ本能で生きてるからさ。やっぱヒエラルキーとか弱肉強食とか、わかっちゃうんだろうね』
薫がストップをかけてもちゃんと聞くよ。
ふつうじゃない関係でも、お互いがお互いを大事にしてるのがわかる。
その輪に俺を入れてくれてるのも。
『ビーヤンをひとり家にほっとくわけにもいかないから、無理やり双雷に引き入れたけど……よかったよ。キユーとも会えたしね』
そのときケンカした相手もクレープの味もあまり覚えていないけど
幸せそうにする薫と柏の表情がそっくりで、胸の内側があったかくなったことは鮮明に思い出せる。



