負け犬の傷に、キス




“負け犬”のうわさが流れたのは、たしか……1年とちょっと前くらい。


俺が双雷の11代目総長に任じられたころ。



常に逃げ腰な総長なんて他にいない……よな。

“負け犬”って言われるのも当然だ。


そんなんだから双雷の弱点と思われて、さっきみたくヤンキーたちに追いかけ回されるんだ。



総長が“負け犬”なら、と外野が面白がり

副総長の薫が“セレブ犬”
幹部の柏が“野犬”とあと付けされた。



そうして双雷の3匹の犬のうわさが定着してしまったんだ。




「俺のせい……だよ、な。ごめんな」


「キユーのせいじゃないよ!」


「でも俺が“負け犬”なせいで……」


「キユーは“負け犬”じゃないでしょ?」




どうして薫のほうがいら立ってるんだよ。

ほんと、優しいな。



「……負け犬、だよ」



俺が総長じゃないほうがいいんじゃないかと何度も考えた。


これまで歴代の総長たちが支えてきた双雷に、泥を塗っているような気がして。



そう悩んで、苦しんでは、薫と柏に止められた。



「本当はわかってるんだ。どうして俺が“負け犬”って呼ばれてるのか。下っ端たちだって、俺なんかについていきたくないに決まってる」