「3匹の犬ってなんだよ。『3匹の子ぶた』みてぇに言ってんじゃねぇよ」
たまり場の洋館に着いて早々、柏がドシドシと地面を蹴る。
ご機嫌ななめな柏に臆しながら、ホールにいた下っ端たちが軽くあいさつしてくれた。
……あぁ、今日も。
下っ端たちの目を真っ直ぐ見れなかった。
不満そうな目。
“負け犬”のお前がどうして、と責めるような。
いたたまれずそそくさと階段を上がり、幹部室と称される一室に入った。
ここは、双雷の上層部しか立ち入れない部屋。
赤、白、黒のシックなソファーに囲まれたローテーブル。あらゆるジャンルの本を収納した本棚。ティーセットやお菓子などを詰め込んだガラス張りの棚。きらびやかなシャンデリア。
……いちいち豪華なんだよな、ここ。
「俺らを犬呼ばわりすんじゃねぇっつの!」
「まだ言ってんの? 子ぶたじゃないだけいいじゃん」
「本気で言ってんのか?」
「……まあ、“負け犬”はどうかと思うけどね」
薫はカスタードクリームで甘ったるくなった口をなおそうと、ティーセットを取り出して紅茶を淹れる。
桜の香りだ。
街に咲いていた桜は、少し前に散ってしまったっけ。



