「いらっしゃいませ」

店員さんの声に、私はタルトを口に頬張るのをやめてドアの方を見る。気になっている人が入って来た。やった!今日は会えた!

紺のスーツをオシャレに着こなし、まるでモデルのようにすらっとした体型の男性。たぶんサラリーマンだろう。栗色の髪と整った顔立ちにケーキ屋にいる誰もが男性を見つめている。

名前も、どこに住んでいるのかも知らない。でも初めて男性を見かけた時から何となく気になっていた。そんな男性は、いつも買うスイーツは決まっている。

「タルトを一つください」

他のケーキには目もくれず、男性はいつもタルトを買って帰る。その様子を何度も見てきた。

見つめすぎたのか、男性がこちらを見る。あっと思った時にはもう遅く、男性と初めて目が合った。心臓が飛び出てしまいそうなほど恥ずかしい。

「あの、よくケーキを買われていますよね?」

男性に話しかけられ、私はドキッと胸を高鳴らせながら「は、はい!」と頷く。男性はニコリと大人びた笑顔を見せてくれた。