鬼さんこちら──
手の鳴る方へ──

ほらここに獲物がいるよ──

あら─
真っ赤な真っ赤なお口ですね──





1月4日

「その時死んだのは誰だったんだ」
「知らない、おそらく──」

躊躇

誰かはわかっている
死んだのは『人間』だ

「まぁわからない事の方が多いわけだし、とりあえず現場行こう、どうやら今回死んでたのは噛まれてたって」

それもそうだ、俺は立ち上がった

「そうだ、その前にこの前新しく出来たカフェに行こう、いいよね?海翔」
「お前の奢りなら」
「ちぇっ、ちゃっかりしてるよ」

真烏の顔は嫌そうではなかった




妖怪

昔からいたとされら得体の知らない、生きているのか、死んでいるのかすら定かではない
夜を行動時間とし、人間を餌として生きる

鬼もそのひとつだ
おそらく今回の妖怪は鬼だろう
聞いた話によれば噛み跡があったらしい
そういう殺し方をするのは鬼くらいしかいない


やつらを倒す方法はただ1つ
祓い札を使った、要するにお祓いだ
妖怪を消滅させる唯一の手段だ

そして俺らは妖怪を祓う
『祓い屋』だ

多くの妖怪の数に対し祓い屋の数はたかがしれてる
とは言っても少ないとは思わない

祓い屋は普通の人間と違うことが多々ある

祓い屋は12のグループに分かれる
12のグループは誕生石に由来している
ガーネットからターコイズ
もちろん自身の誕生月で分かれる

分ける理由
祓い札との相性だ
自分の誕生月によって相性がいい悪いがあるらしい
いまいちわからないが


俺、橘 海翔はルビー
そして隣にいる猫田 真烏はパールだ

こいつとは昔からの腐れ縁で妖怪を祓いに行く時は大抵同じ





「あー美味しかった」

真烏は満足した顔だ
本当にわかりやすい

「それじゃあ海翔、現場に行きますか」

頷く





「あーらら、今回も派手に殺られちゃったね」
「相変わらず気楽そうだな」

長野県、山奥
風が冷たい
家の周りに山なんてないから不思議な気分だ

そしてやはり鬼か
首筋から肩にかけての噛み跡

血はほぼ無さそうだ
つまり

「吸血鬼だね」

大正解
吸血鬼は人間の血を好む鬼だ

「・・・ん?ねえ、これ本当に吸血鬼かな?」
「は?」
「いやさ、見てよこの傷、吸血鬼ならここまで沢山噛まなくても血は飲めるはずだよね?」

吸血鬼の噛み跡
虫刺されのような小さい傷

だがこれは吸血鬼とは全然違った噛み跡だ
だが、一概に他の種類の鬼の仕業とは言えない
血がほぼないんだぞ

違和感

「・・・なんでだよ」

吐き捨てる

「これを吸血鬼と決めつけるのはだめだよ」





「初めて見るタイプの鬼だった、と」

目の前の女は夜の闇の中でこぼした
そっと目を開ける

「これは私も初めて聞いたわ」
「三輪ちゃんでも知らないのかー」

三輪 はらし
エメラルドの知識人
代々祓い屋の名家に生まれた、祓い屋になるために育てられてきたやつだ
こいつなら知ってると思ったが

「ならいい、他を当たる」
「ごめんね、私も少し調べてみる」
「ありがとね、三輪ちゃん」


どうする?

自分に聞く
噛み跡から鬼である事は間違えないだろう
そして血がほぼない
だが、吸血鬼ではない

他に
他に血を吸うような鬼はいたか?

「今考えてもわかんないことばっかりだし、もう少し現場検証ってことで」
「あぁ」

こういう時真烏の性格には助かる
無駄に考えないところが俺自身の気持ちを落ち着かせてくれる


今回の被害者の殺され方を思い返せ
首から肩にかけての痛々しい傷跡
骨まで見えてしまうくらいに痛々しい傷

その反面他には傷はない
鬼だったら跡形もないくらい喰らい尽くしてしまう
吸血鬼ならどうだ
虫刺されのような小さい噛み跡
血は全て吸ってしまう

「どんだけ考えてるんだよ」
「分かりそうで分からない」
「こりないねぇ」
「うっせ」

被害者の血はほぼなかった

「じゃあまた明日、今日は休もう、考えるのはそれからだ」
「おい、あと少しで分かりそうなんだよ」
「無理は禁物!海翔は自分に厳しくやってて凄いけど無理しすぎなんだよ、体、大切にしてよ」

驚いた

目の前の、しかも真烏だ
俺の心配?
普段はこんなことをしない

「明日もある、今日は寝よう、明日に備えよう」
「ん」

石を見る

「・・・照れてんの?」
「照れてねーよ」
「照れてるのかー、何?心配されてちょっと嬉しかった?」

図星
急に恥じらいが

「ああ!もううるせー!寝りゃいいんだろ!寝てやるわ!」
「はいはーい、帰ろう」

こいつの視線がうるせえ

鬼のことは明日の俺が解決してくれることを願って今日は寝よう





1月5日

朝だ

眠い

寝たとはいえ昨夜(とはいっても今日にあたるが)帰ってきたのが午前2時だ
そりゃ眠いわ

現在午前6時

いじめじゃね?

やっぱあっちの方で泊まってけば良かった
なんでわざわざ東京まで戻らなければ行けなかったんだよ

俺は成長盛りの─
やめよう、悲しくなる

とりあえず目を覚ます為にも水を飲もう
2階の寝室から1階に降りる


目が覚めた
冷たい水は本当に有難い
とはいってもとても寒い
布団に戻りたい欲望を抑えて朝食の準備に取り掛かる

こういう朝はスープに限る



「兄貴?早いね」

眠そうな顔
おぼつかない足取りで降りてきた

「あぁ、まだやんねえといけない事があるからな」
「大変だね」

3つ年下の弟、結翔
俺の唯一の家族

ついでにこいつの分のスープも作ったるか



「ごちそうさま、美味しかった」

頬が緩む

「そりゃよかった」

ほんとに美味そうに食う弟だ
作ったかいがある
まだ眠いのだろうか、ぼーっとしてる

「もう少し寝てろ」
「んー?大丈夫だって」
「明日は学校だろ?」

こいつはまだ学生だ
いや、俺も一応学生か
そんなことはどうでもいいが

「それじゃあ、俺は行くな」
「行ってらっしゃい、気をつけて」
「おーよ」

心配そうな目
不安が目に映っている

「死なねーよ、俺を誰だと思ってんだよ」
「う、うん、そんだよな」
「お前を1人にしない、ずっと言ってるだろ?」

だから大丈夫─目を見た
いつになってもこいつはこいつなんだよな
優しいやつだ

「俺が死ぬ時はお前が死んだ時だ」

背を向ける

「気をつけてよっ!」

手を振る

誰が死んでやるかっつーの
俺は強くなんねーといけないんだよ