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「………、」
「………青、なんで何も話さないの」
「…別に、話すこと、何もないから」
「…ん、そっか」
その日、千草との帰り道は、
ほとんど会話をしなかった。
重苦しい雰囲気に包まれていたけれど、話すことなんて、もうひとつしか残ってない。
何気ない些細な会話なんて、できるわけがなかった。
ずっと、ずっと、ずっと。
トイレで聞いてしまった噂が、頭のなかを駆け巡っている。
それで、ところどころに乱暴に傷をつけて、苦しさや痛さは募っていく。そうしているうちにも恋心は殺されていく。
今だって、隣に並んでいるけれど、きっと千草が想っているのは広野みゆちゃんで、私を重ねているんだね。
いつもより歩くスピードは速い。
私が、早歩きをしていて、それに千草が合わせているからだ。
家が見えてきて、いよいよ、
カウントダウンがはじまる。



