ローファーに履き替えて玄関先でまた合流しても、私は隣には並ばないで千草の後ろをついていった。
「…となり、きて」
「……っ、なんて?…聞こえなかった」
「なんでもない」
聞こえないふり。千草の言葉に、胸は甘くとくん、とはねたけれど、それも知らないふりをして頑張って後ろにいる。
そんな私に、千草はもう何も言わなかった。
前にいるのに、窮屈そうに足を動かして、私に歩くスピードを合わせようとする千草。その、大きくてかたちのいい背中。
そこに細くて白い手がまわっていた。広野みゆちゃんの手。
思い出す。
思い出したくないのに、思い出してしまった。不意をついて記憶は流れてくる。
それくらい強烈だったの。



