「なんで後ろにいるの」



玄関口にある靴箱の前で、千草が振り返って私を不機嫌に見下ろした。

呆れるているような口調に、おまけみたいに、ふぅ、と小さなため息までついてくる。


理由は明確だけど、千草の前で広野みゆちゃんの名前を出したくなくて、今は私のことだけ考えてほしくて、そうなると千草に説明できる理由はなにもない。




「別に、なんとなく」

「へー」

「意味ない、けど、後ろにいたかっただけ!」



途中で言葉につまってしまって、これじゃ嘘をついていることなんてバレバレだ。

気まずくなって俯くと、千草はまた小さく短いため息をついた。



「あっそ」


千草の足音が遠ざかっていく。靴箱のところに行ったんだろう。

理由なんてたいして気にもしてないくせに、聞くだけ聞いて。それで。



……“あっそ” って、なんだそれ。