「なんで、あの子に頼んだの」
「別に、なんとなく」
「…教室入ってきてくれればよかったのに」
迎えにきてくれてありがとう、って言うところなのに、口から出たのは文句みたいな言葉で。
こんなこと言いたいわけじゃなかったけど、この流れで、ありがとう、はさすがにもう言えない。ちょっぴり、後悔だ。
千草は、私の言葉に不服そうな表情をつくって返事も相槌もせずに歩き出した。
私はその背中を追いかけて、隣には並ばずに後ろをついていく。
学校を出るまでは千草の隣にいかない。今朝、妃沙ちゃんに"浮気"って言われたことが、こころの奥に微妙にひっかかっていた。
今、学校のなかで、広野みゆちゃんにばったり会ってしまったらどうしようかと焦りながら千草の後ろを歩いていたけれど、出くわすことはなかったからほっとする。
本当は、千草だって気にするべきことなのに。当の本人はたぶん何一つ気にしてないだろう。
私だけがひやひやさせられてるのが、なんだか少し腹立たしかった。



