ねえ、理解不能【完】





ぽつん、と自分の席に取り残された私は、帰る準備をはじめることにする。



筆箱とスケジュール帳と課題のプリント、それから引き出しに隠していたお菓子。
それだけ。

時には教科書とか持ち帰ってみようかな。なんて到底意味のないことで迷っていたら、机の前に人影があらわれて。



千草だと思って顔を上げたら、予想は外れだった。あまり話したことがないクラスメイトのおとなしめな女の子が目の前に立っていた。

ほんのり頰を赤く染めていて、恥ずかしそうに私を見ている。


状況がつかめなくてきょとんとしてしまっていたら、その子が、小さく口を開く。




「……あの、旭くんが、青ちゃんを呼んできてって……っ」



か細い声でそう言いながら、教室の後ろの扉をちらちらと伺っている。



「…千草?」



千草とも今まで何一つ接点がないだろうその女の子から、そんなことを言われたものだから、思わず聞き返してしまう。

そうしたら彼女は、うん、と赤い顔で頷いて、うれしそうにはにかんだ。





……千草のファンなのかな。



無表情で、だいたい眠たそうなあんなののどこがいいの。顔か、顔だよね。つり目もかっこいいと思ってる? たぶん、あなたが思ってるより、喋らないしつまらないよ。



……なんてね。


私もあんなのが好きで苦しくて仕方ないんだった。

本当に嫉妬だけは一丁前だ。ただのクラスメイトの女の子にまで嫉妬してしまう。何様だよって、ツッコミがふさわしい。




私は邪念を消し去るように、後ろのドアを振り返れば、扉から教室の中を覗くように廊下に立っている千草と目が合った。