教室にはいると妃沙ちゃんはすでに席に座って本を読んでいた。
私はおはよう、と一言だけ声をかけて、自分の席へいく。妃沙ちゃんの席の隣には、座れないし近づけない。
そんな私の気持ちをきっと十分汲み取ってくれたのか、妃沙ちゃんは、文庫本を机の上において私のところまできてくれた。
「今日ね、化学の日向先生がお昼休みいちご飴食べに来ないかって言ってきたけど、青一緒にいかない?」
「ええ、日向先生が?でもなんで?」
「アルコールランプで砂糖燃やしてたら、食べたくなったんだって」
化学の日向先生はいつも何を考えているのか分からないし、朝イチでそんな提案をしてきた妃沙ちゃんも少しだけよくわからなかったけれど。
「甘いもの食べて、青には元気出してほしい」
そうやって、ふわりと笑ったから、納得した。元気づけようとしてくれてるんだ。
落ち込んではないけれど、心が不安定なのは確かで、それが妃沙ちゃんにはしっかりと伝わってしまっている。
妃沙ちゃんと話すと、やっぱり元気が出るよ。不安定な私に、うまく接してくれる。
妃沙ちゃんは、日向先生の面白エピソードを私に話しながら、いたずらっ子みたいに笑ってる。
内容が面白いってこともあるけど、妃沙ちゃんの笑顔をみてつられて私も笑ってしまう。
「……妃沙ちゃん、だいすき」
なんだか、急に伝えたくなってしまって、話の途中でそう言ったら、妃沙ちゃんは驚いたのかパチパチと数回瞬きを繰り返して、そのあと、ふふ、とお姉ちゃんみたいな笑い方をした。
「いきなりですねえ、青さんは。照れちゃうよ、私だって」
妃沙ちゃんになら、大好きって躊躇せず言える。嬉しくなってくれるって知ってるし、伝えたいときに伝えられるんだ。
でも、それは、妃沙ちゃんに対する“好き”が、友達の“好き”だからだ。



