「なに」
「千草、耳の後ろに寝癖あるよ」
指をさして寝癖のある場所をしめすと、千草はむっとわずかに不機嫌な表情をつくって、最悪だ、と呟いた。
髪型くらいいいのに。
千草って結構外に出るときは髪型にこだわるんだ。そういうところは本当に昔と変わってない。
耳の後ろあたりの髪に触って確かめているけれど、なかなか寝癖を発見することができないみたいで。
「もっと、右のところだよ」
「ここ?」
千草のさらさらの髪の毛がゆれる。その度に、私のところに千草のシャンプーの匂いが香ってきて、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「もうちょっと上」
「どこ」
「だから、上の方だってば」
「本当にあんの」
千草の眉がぐっと寄って目が細められたから、探し当てられなくて煩わしくなったんだろうな、と推測する。
教えてあげたのに、寝癖の存在そのものを疑いはじめた千草に私も少しだけむっとしつつ、何度も頷いたら、千草は、もういいや、と呟いて、髪から指を離した。



