千草が顔をそらして私から視線をはずしたのをいいことに、そのまま千草のほうを見つめたままでいる。
胸の奥から甘酸っぱいなにかが溢れてくるような感覚に、緩んでしまいそうな唇を強く引き締めた。
やわらかくてゆるい千草の声。
知らない、そんなの。
昔よりずっとあたたかい雰囲気を纏ってる気がするのは、思い違いだろうか。
私から顔を背けたくせに、腕は時折触れ合っていて。わざとなんじゃないか、って思ってしまう。
近いまま離れない距離。すぐ隣にいる。
千草、そういうのは、反則だよ。
何気ない千草の仕草や言葉に一喜一憂してしまう。落ち着いて動じずにいたいのに、こころもからだも言うことを聞かないの。
じんわりと染み込む柔い苦しさを感じながら歩いていたら、ふと、千草の耳の後ろに目がいって。
「(……寝癖ついてる、)」
ぴょん、とはねた髪先。たぶん、自分からは見えない位置だったから、直せなかったんだと思う。
面倒くさがりで朝が弱いくせに、髪型だけは密かに少しだけセットしている千草なのに。
ふふ、と苦しい甘さから解放されて、小さく笑ったら、千草がそむけた顔をもう一度私に向けた。



