ねえ、理解不能【完】






千草が隣にいる。

だけど、会話はない。
ただ、ふたりぶんの靴音が鳴ってるだけだ。



元々千草はハキハキ話すタイプの真逆にいるし、私の相槌をうちつつ少しだけ言葉を返すことの方が多かったから、私が話さないと沈黙が続くのは当たり前といえば当たり前で。


気まずいから何か話したいのに、何を話せばいいのかまるで分からないし、また馬鹿なことを言って千草を怒らせてしまうと思ったら怖くて安易に話題を振ることもできない。




昔は、どんな風だったんだろう。

振り返ったところで、昔とは置かれてる状況も私の千草に対する気持ちも何もかも違っていて、全然参考にならないんだ。




昔と同じようには接せられない。恋心は本当に厄介だ。


私はうつむいて足元を見つめながら、前に進む。早足になることもなく、私のペースで。

会話はしていなくても、歩幅を私に合わせる千草。




………今、何を考えてる?



ちらり、と隣を見上げると、千草は眉間をぎゅっとよせて、なんだか気難しい表情を浮かべていた。