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次の日の朝、恐る恐る玄関の扉をあけたら、本当に千草が待っていた。
朝が弱いのは今も同じようで、まだ完璧には起きていない眠たげな顔で家の塀によりかかっていて。
眠たいくせに私より絶対先に家の前にいるところも変わってない。
ーー本当に、待ってるんだ。
昨日のことを思い出す。そうしたら、苦しさと甘さで、胸が変なふうにぎゅっと痛んだから、ふぅ、と一度息を吐き出した。
髪は、アイロンでゆるく巻いて、前髪は真ん中でふんわりとわけた。
少しでも可愛く思ってもらいたい、なんてそんなことを思いながらアイロンを髪に巻きつけたついさっきのばかな私。
千草のもとへ行く前に、さっと手ぐしで前髪をととのえる。
それから、千草の方へ足を動かす。
私のローファーの靴音が耳に届いたのか、千草がゆっくりと私の方に視線を向けた。
それからわずかに首をかしげて、つんと澄ましたような表情を作る。つり目がちな瞳がしっかりと私をとらえて、千草は塀によりかかるのをやめた。
「お、おはよう」
おずおずと手を上げて、小さく笑う。
昔と同じように言えたかは分からないけれど、不自然にはなっていないはず。
「ん、おはよ」
千草は寝起きみたいな少し掠れた声で返事をしてきた。
おはよう、ってまた言い合える日がきたんだ。そのことにじんわりと感動してしまい、誤魔化すように、行こう、と学校に向かって歩き出した。



