「……ごめん」
「……もう、いい」
「仲直りしてくれんの」
千草はまだ私の頭をなでている。涙はもう止める術がなくてとめどなく溢れてくるけれど、嗚咽は止まった。
私は、こくりと頷いた。
そうしたらすでに近い距離にいた千草がさらに私との隙間をつめる。
そして。
「じゃあ、一個だけ分かっててほしいことある」
そう言ったかと思ったら、両手で私の肩を優しくつかんで、俯いている顔を覗き込むようにして瞳をすくうように捉えた。
いつもの気だるげな顔じゃない。真剣そのもの。その顔のまま、もう一度、千草の唇が開く。
「幼なじみに戻るために、青と仲直りしたいわけじゃない」
「っ、……ぇ?」
「絶対、前みたいには戻ってやらない」
それは、
宣戦布告をする、悪魔のようだった。
泣いているのに、鼓動はものすごい勢いで加速する。かっ、と頰に集まった熱は、夏の夜の風ではさらえない。
言われた言葉もほとんど理解できていないのに、平常心だけが奪われていく。
「もう、逃げない」
初めて見る千草の表情が、目の前に広がっている。
ゆっくりと顔を上げると、それに合わせて千草も少しだけかがめていた身体を戻して、伏し目がちに私を見下ろした。



