「……あのさ、青」
珍しくつまったような千草の口調に、私はゆっくりと顔をあげる。
その瞬間、千草と視線が絡まって、どきり、と心臓がたしかな音を立てた。
真っ直ぐな視線。ひとつも揺らいでいない瞳。どうして、と取ってつけたような疑問詞だけに、なんとか自分が守られているような心地になる。
「俺のこと、ゆるして」
「……え、」
「…今まで、ごめん」
「………」
「ーー仲直り、したい」
千草のその言葉を合図に世界は夜になったような気がした。
そのくらい千草の声は、やけに独立して浮いていて、最初は意味のない音だけが私の耳に届く。
私はゆっくりと瞬きをして、もう1度千草と瞳をあわせる。
千草の影が視界の端っこで小さくゆれた。
それから、千草が頼りなさげに私のブラウスの袖に指を伸ばして、ごめん、と小さく呟いた。
触れてる、私からじゃなくて千草から。
そこで、脳がさっき言われた台詞をもう一度反芻させる。
仲直り、
千草は、確かにそう言った。



