「……青、遅い」
私とすこしの間隔をあけて立ち止まった千草。その声が、私の頭上におとされる。
気だるげな声音とおとされた言葉に、すべての感情をぶつけたくなったけれど、ぐっとこらえた。
きっと、昔の私なら。
まだ、何一つ気づいていなかった頃の私なら、こんなに不安定な感情になったら、躊躇いもなく千草に抱きついて泣きわめいていた。
まとまらない感情をぜんぶぜんぶ言葉にして、千草にさらけだして、それでひたすら甘えて。
「……別に、千草には関係ない」
だけど、今は言えないことのほうが遥かに多いし、感情なんて必死に隠さないとって思ってる。
私のこと、何もわからないで。
だって、千草が何考えているかなんて、もうぜんぜん見えないんだから。
「青、」
だけどね、今でもね、
私、千草の切なそうにする声は分かるよ。
それで、今では
私まで切なくなってしまうんだ。



