「……千草、」




私の家の塀にもたれかかって、相変わらずのきだるげな表情をした千草が薄暗闇のなかでぼんやりと見える。



その身体がしっかりと向き直って、立ち尽くしたままでいる私に近づいてきた。


私は、引き返すこともこのまま進むこともできずに、ただこっちの方に歩いてくる千草を見ることしかできない。







今日は、誰にも会いたくなかった。

本当に、そう思っていた。




姿が目に映るまで、千草に会いたくない、ってちゃんと思ってたんだよ。






なのに。


「……どうして、」




意地でも抱きたくなかった安心感と喜び。それに包まれる感覚に、自分を責めてみたけれど、会いたくない、が、会いたかった、に姿を変えて、それが全てだ、と主張する。



自分では、ひとつも抗えない。



だれが、こんな気持ちに恋なんて名前をつけたんだ。