「青、今日はやいね。おはよう」
「あ、妃沙ちゃんだーおはようっ!」
家を出る時間がはやすぎて、はじめて妃沙ちゃんよりも先に教室に着いてしまった。
することもなく自分の席でもじもじしていたら、いつもと変わらないご機嫌麗しゅう妃沙ちゃんが話しにきてくれる。
挨拶は、きっと元気に返せたはず。
それで、今もちゃんとしっかり笑えてるはず。
だけど、微笑んでいた妃沙ちゃんは、すぐにぎょっと驚いたみたいに顔をしかめて。
「青、その顔どうしたの?」
この顔は、誰でもそう言いたくなるよね。
私は苦笑いをしながら、ポニーテールの先を触る。
「実はね、昨日妃沙ちゃんと別れてお家帰った後に、かなり切ない映画を見ちゃって。それで、一晩中号泣しちゃったんだー」
完璧な嘘。嘘でしょう?なんて絶対に言わないでね。妃沙ちゃんに嘘をつくのは心苦しいけれど、今回ばかりは本当に仕方ない。
「ふふ、青らしい。パンダみたいね」
妃沙ちゃんは、私を指さしてからかうみたいに笑った。
騙されてくれて、ありがとう。
それから、妃沙ちゃん、私、恋をしたよ。
叶わないことに、妃沙ちゃんみたく笑うことはできないよ。
そう、いつかは、妃沙ちゃんに聞いてほしい。だけど、それは今じゃない。



