しばらく、千草の方を見たまま、突っ立っていた。もう、どうすれば黒い感情が消えるのかわからなかった。
そうこうしているうちに、千草に見つかって、やつと一瞬だけ目が合う。
本当に、一瞬だった。
顔色ひとつ変えなかった。
かするような視線は、すぐにまた広野みゆちゃんに戻る。
だから、広野みゆちゃんは何も気づいていないだろう。
「(どうしよう、)」
私は手のひらを握りしめる。このままこんなところにずっといることはできないし、そんな行動をとりたくない。
だけど、これ以上二人には近づきたくても体が拒否するんだ。
引き返して、散歩してから、家に帰ろうかな。でも、それも不自然な気がする。二人のこと意識してるって思われるのも嫌だ。
いろんな方向に伸びた“嫌だ”のベクトルに、身動きがとれない。混乱している。どれを選んでも、最悪になった気分が戻るとは思えなくて。



