「ちぃくんも、いいでしょ?」
「ん、いいよ」
千草のほうはもう見ない。顔も見たくない。
本当は声だって聞きたくないくらいだ。
視界に入らないように頑張って広野みゆちゃんだけを見つめながら、精一杯わらう。泣きそうな気持ちはなんとか消すことができた。
「私もはやくゆうと二人になりたい」
「うん、じゃあ決定だねっ」
広野みゆちゃんが可愛い声でそう言って、やっと解放される、と思ったら、肩の力が抜けた。
“ださい”千草が今日のダブルデートでずっとそう思っていたのかなと思うと、やっぱり泣きたいけれど、そういう気持ちを丸めてミネストローネと一緒に飲み干す。
突き放されて、置いてかれて、それから傷つけられた。それなのに、思い出はひとつもかすまないんだから、馬鹿みたいだ。
それでも、今日の千草は一秒たりとも好きじゃない。



