「わあ、やっぱかわいい! 似合うーっ」


 ある日の部活で、小城さんがお土産のかんざしを挿して来てくれた。銀河や弘則や羽野川くんも一緒になって小城さんを囲み、彼女は照れながら笑っている。


「クラスの友達もかわいいかんざしだって、うらやましいって言ってました。本当にありがとうございます」

「えへへ」


 机の上には、いつもと違いゲームではなくお土産のお菓子が広げられていた。小城さんが荷物を置きながら、あれ? と首を傾げる。


「このお菓子は……? 誰からですか?」

「私だよ」


 私が手を上げると、銀河がいらぬ補足をした。


「昨日一昨日、雛芽と三栖斗で旅行に行ってたんだって。そ・れ・で、お土産」

「えええっ!? せっ、先輩、本当ですか!? すごいですね……本当に、なんと言うかその、仲良すぎですよね」

「ち、違うの! 旅行っていうか、あの……親戚の家に遊びにねっ」

「恋人同士で親戚の家に行ったってなかなか……」

「銀河はそろそろ黙ってくれないかなっ!」


 修学旅行から、2週間が経った。

 あの後祖母の家に電話をすると、すでに祖母は事情を知っていて「いつでもおいで、近くの駅までは車で迎えに行くから」と穏やかに言ったのだった。

 両親にはまだ内緒で、祖母の家に向かおうと思うと……結構な電車賃が必要だった。けれどいつか乗ったあの七不思議のバスに乗り、バケモノ達の世界から祖母の家の近くへ行くバスに乗り換え、意外と……確か1時間くらいで行けてしまったのだ。



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 丸っこい軽自動車で、私が降りた場所に迎えに来てくれた祖母は三栖斗とまず挨拶をすると「雛芽、カッコいい人つかまえたじゃない」とこれからの不安など何でもないように私を肘で突いた。

 それから車に乗って祖母の家に着くとちょうどお昼時で、家にあがると台所に先日会ったばかりの祖父が立っていた。山菜の天ぷらを揚げ、あたたかい蕎麦と一緒にテーブルの上にそれを並べてくれ、まずは4人で一緒にお昼ご飯を食べた。


「あの子に真実を話す時は来ないと思っていたけれど。雛芽達がそうしたいなら、話すしかないわねえ」

「お願いできますか」


 もちろん、と祖母は微笑む。そしてその時はここにいる4人全員一緒ですよ。とも言った。


「三栖斗さん、これは私からのお願いです。雛芽は恐らくもう少しすれば成長が止まるでしょう。ですが周りが老い始めるまでは人間の中で生きられるはずです。それまで、人間の世界で橘雛芽として生きる事を許してやってくれませんか」