昼休み。

 怜音達とお弁当を食べようとしていた私の肩にポンと手が置かれる。ああ、このパターンか……。私は振り向きざまに笑顔で先手を打つ。


「無理」

「ちょっと話しながらお昼食べない?」


 銀河先輩――もとい、銀河だった。後ろにはあきれ顔の三栖斗もいる。呑気に怜音達が「雛芽モテるぅ」と囃し立てる。


「私の方が早かった、無理。私、怜音達と食べたいから。以上」

「今日からの部活の事で相談しておきたいことがあるんだけどな~」


 バッサリ切り捨てる私に、もっともらしい事を言って誘う銀河。怜音達が「部活の事でしょ? 行ってきなよ。私達とはいつも食べてるし」と私を置いて机をくっつけてしまったのを見て、仕方ないと大きなため息をついて諦める。

 銀河が鍵を指でくるくると回しながら「じゃ、部室いこ」と上機嫌で歩き出し、私と三栖斗は顔を見合わせてからその後ろをついて行くことにした。







「ごめんねー呼び出しちゃって! 部活までに口裏合わせておきたくって!」


 部室に入って私たちが着席するなり、銀河はパシンといい音を響かせながら手を合わせた。

 その口調はちょっとチャラめな男子生徒というより“銀河先輩”の喋り方に近い。


「疲れた……」


 三栖斗が座ったままうな垂れる。今日2人は殆どずっと一緒に居たので、調子が狂ったらしい。


「染みついた喋り方ってなかなか抜けないのよね。こりゃ慣れるまで大変だわ」


 銀河は銀河で、肩に手を置いてわざとらしく首をコキコキと鳴らして呟く。


「それで、口裏合わせって具体的には?」


 私が促すと、銀河は「そうそう」と手を叩いて着席した。


「このまま部活を始めると高村くんが混乱するから、まず今日そこをうまくサポートして欲しい」


 スマホを取り出し「つまり元の銀河先輩の記憶を弘則も持ってるのと、今の銀河の事を知らないから事前に言っておけばいいんだよね?」とメッセージ画面を起動すると「そう、そうしてもらえると助かる」と銀河。


「君達の勝負が始まった時にあの場に居たからねぇ。今更あの子に嘘をつくのもなんだかなぁと思って」


 私は早速弘則宛のメッセージを打ち込む。その間も銀河は篠森銀河という人物の“設定”を語っていく。


「部活は三栖斗達と一緒のタイミングで入ったという事になってるから。他の2人や継野くんにも俺は認識できるはずだよ」

「3年生は何人いたって事になってるんです?」

「2人。継野くんと、幽霊部員が1人いたかなあどうだったかなぁ? まあいいか、ってくらい」


 銀河先輩が幽霊部員って。ありえないけどある意味近くもあるのか。……“遊び子”というのが幽霊なのか妖怪なのかよくわかってないけど。彼らはいつの自分を“バケモノ”と呼ぶから。