篠森 銀河。

 それが銀河梓先輩の、新しい名前だった。

 明るくてちょっと調子に乗りやすい性格はそのままに、先輩だった頃の女性らしい言葉遣いは封印して男子生徒としてクラスに溶け込んでいる。


 休み時間に朝と同じように絡んできたので「なんで今度は男子なんですか」と訊いてみた。


「そりゃ、ギャーギャー騒ぐタイプの部員がいなくなって、羽野川くんが気を遣うからよ」


 封印したはずの女言葉がポロッと出て「いけね」と彼は舌を出した。


「俺は継野くんと羽野川くんの口汚く騒ぎながらゲームするスタイル、本当に楽しそうで好きだったんだよね。でも、今のメンバーってみんなお上品じゃない? だから、継野くんの代わりと言ってはアレだけど……場にある見えない壁をぶち壊すキャラにしたかったんだよね。羽野川くん“私”が先輩で女ってだけですっごく遠慮してたし」

「上品なプレイはダメですか」

「全然ダメじゃない。ゲームにも礼儀マナーは当然あるし、それは守らないと。ただ、継野くんや羽野川くんのスタイルが俺にはあまりできないやり方で、うらやましかったからこうしたって感じかな」


 彼が指にいくつもはめた黒っぽい指輪をいじりながら微笑んだ。

 確かに、家で男兄弟が騒ぎながら遊んでるかのようなあの空間に遠慮なんかなくて、私もそれは楽しかった。継野先輩がいなくなって、その空気が変わってしまうかもって銀河先輩は考えたんだ。


「ところでー」

「はい」

「マジでその敬語は今となっては調子狂うから、もっとラフに接してよ雛芽」

「呼びす……は、はあ。それ、私も下の名前で呼んだ方がいいんで……いいのかな」

「まあ銀河って名前自体は馴染みがあるし、そっちの方が反応しやすいから助かる!」

「わかった……銀河くん」

「呼び捨て推奨」

「……銀河」


 オッケー! じゃ、そういう事でヨロ。と手を振って、彼は自分の席に戻っていった。

 その後姿は花でも飛んでそうに浮かれていて、少しだけ笑ってしまった。