文化祭が終わり、次の部活の日に部室で打ち上げをして3年生が引退した。

 文化祭の日に少し気まずかった弘則とも、何もなかったように普段通り話ができ、私たち2人は打ち上げが終わってから部員みんなの前で夏祭りの日にあった事を報告した。

 なんだか仲が良すぎて、結婚会見みたいで不思議な感じだと羽野川くんが首を捻っていたけれど、夏祭りから時間が経っていることもあって特にワイワイ掘り下げられる事もなくあっさりと終わった。


 そして予告通り、週明けの学校から“銀河梓”という3年生の存在は消えていた。覚えているのは、多分私と三栖斗と弘則だけ。


 かわりに、私たちのクラスにまた生徒が1人増えていたのだった。


「おはよー佐古ー!」


 満面の笑みで見知らぬ男子生徒が勢いよく教室の扉を開け、三栖斗の後ろの席にドカッと座る。

 眉をぴくりと動かしただけでそれを冷静に流し、三栖斗は振り返って目の前に座っている金に近い茶髪の生徒を見据えた。そして「ああ、おはよう」と笑顔を貼り付け挨拶して、静かに席を立つ。ゆったりと余裕の動きで教卓に置かれたクラス名簿を開いて名前を確認し、また自分の席に戻った。


「苗字くらい前と同じにしてもよかったんじゃないか、“篠森(しのもり)”」

「呼びやすいように下の名前を“銀河”にしてあるだろ?」

「じゃあそうしよう。君も下の名前で呼ぶといい」

「りょっかーい」


 そのやりとりをすぐ傍でなるべく反応しないようにスマホをいじりながら聞いていると、目の前のまだ登校していない生徒の席の椅子がガタンとうるさい音を立てて引かれた。そして今度はその男子生徒が私の目の前に座った。……お願い、やめてほしい。


「おはよう橘さん」


 今度は声を抑えて、顔を覗き込みながら挨拶してくる。顔は銀河先輩に兄弟がいたならこんな感じなんだろうな、でも瓜二つってほどじゃないな……といった感じ。つまり顔がいい。近い、やめて。


「……おはようございます」

「もう俺先輩じゃないから~。仲よくしよ。あっ、この際さ! 橘さんも下の名前で呼んでいい感、じッ!?」


 目の前の人物が猫みたいに首の後ろを掴まれ立たされる。


「君の席は私の後ろだろ? 銀河」

「あっはは挨拶してただけじゃーん。怖い怖い」


 三栖斗が彼を引っ張って自分の席へ戻っていく。私は頭を抱え、大きくため息を吐くしかなかった。