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「霧が出てきた。早く……帰らないと。帰り道がわからなくなっちゃう」


 あれ? どうして私は山の中を歩いているんだっけ?

 ……そうだ、弘則の家と私の家で一緒にキャンプに来て……弘則がいつの間にかいなくなってて……でも、あれ? それって何年も前の事じゃなかったっけ?


 あ、これ夢か。

 気づいてしまうととても不思議な感覚。そういえば前にこんな事があったなと、辺りを見回す。


「結局……どこで弘則を見つけたんだっけ。あまり覚えてないんだよね」


 夢と分かっていても、山の中で迷子になった弘則を一人にはしておけない。可哀相だし。きっと今頃怖がって座り込んで泣いているに違いない。


「あれ? でも……前はあんなに怖がりじゃなかった気がしなくも……」


 霧で視界がどんどん奪われる。

 本当にこっちに居るのかな……。実はさっさとみんなの所に戻ってるかもしれない。なんて思い始めた時、木の根に躓いて転びそうになった。


「わっ、と」


 咄嗟に木の幹につかまって転ばずに済んだ。

 けれど、転んだ先に地面がない。そんなに高くはないけど、あのまま落ちたら大ケガしそうな崖だった。


「あっぶな……」


 けれど……そこに覚えのある服の色がかすかに見えて……。



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