文化祭。

 視聴覚室でくり返し流れる映画は、クラスの出し物として撮影したものらしくそれなりのクオリティではあったけど……そのチープさと内容のシュールさがうまく噛み合ったらしく、口コミで昼前にはほぼ席が埋まるほどに好評だった。


「私は納得がいかない」


 三栖斗が屋台で買ったたい焼きをかじりながら愚痴る。

 完成作を観たのは今日で2回目だ。さっきまで呼び込みで視聴覚室周りに立っていたから、自然とそのまま中で作品も観る。そして、やっぱり納得がいかないと言うのだ。


「なぜ、わざわざ撮り直したのにNGの方を使うのだ」


 完成した映画の中で、口から血を流して倒れている社長は笑っていた。

 それを観客が「おい、笑ってるじゃねえか」と笑いながら観る。

 全体のシュールさからして、こっちの方が合っていると判断したんだろう。実際、あの作品には合っていた気もする。


 三栖斗のこの態度も、怒っているというよりただ単にNGを使われて、更に素の自分を笑われて恥ずかしいからだろう。

 クラスの呼び込み当番を終えて、怜音達とバトンタッチしてからこうしてなぜかコイツと昼ご飯を食べているんだけど……2人で歩いていると目立つのがなんとなくわかる。

 微妙な居心地の悪さを感じていると「ヘイヘイヘイ」と、近くのテントから呼び込む声が聞こえてきた。


「お2人さーん! 何か食べて行かない?」

「銀河先輩」


 先輩がクレープを巻きながら私の方にウインクする。

 ふーむふむ。クレープか、うん。今クレープの気分になった。


「じゃあバナナチョコのをひとつ下さい」

「はい喜んでー!」

「銀河、それは何か違うぞ。……あ、いや。銀河先輩」


 鼻歌を歌いながら、銀河先輩がポイポイと具をのせてソースをかけ、たたんでくるくると巻いていく。

 あっという間に出来上がったそれは、めちゃくちゃ手馴れていた。さては今年の文化祭以外でも何回か“3年生の屋台”やってるな……。


「私もあと少しで交代だから、2年5組の映画観に行くわね」

「や、観なくていいです」

「うむ」

「そう言われると観たくなるのよ、知ってた?」


 じゃあ私たちそろそろ部室に行って交代するので! と言って逃げるようにその場を離れる。

 それを笑って見送る先輩の声は本当に楽しそうだった。