アイロンで髪をまっすぐに戻し、制服に着替えて私は旧図書室に一人で向かった。

 相変わらずここには人ひとりいなくて、埃っぽい。

 図書室の中を見渡すと、本棚と本棚の間に和服姿の女性が立っているのを見つけた。


「縁切りさん、お待たせしました」

「橘さん。お忙しいのに突然すみません。私、いきなり思い出してしまって……物忘れがひどいので覚えているうちにお伝えしておきたくて」


 縁切りさんは開いていた本を閉じ、本棚に戻すと私の所に近寄って来る。


「遊び子から聞いたのですが、橘さんはご自身の中にあるバケモノの血について事情をご存じないそうで」

「あ、はい……。というか、認めたくなくてあまり触れてなかったというか」


 そうですか。と縁切りさんが頷く。

 予期せぬ展開に、突然心臓がうるさく鳴り出した。


「私、おそらく知っています。必要でないのでしたら黙っていますが、もし橘さんがそれを知りたいと思っていらっしゃるならお話しますわ」

「…………」


 ちょっと待ってもらえますか。と言うと、「はい」と言ってそのまま静かに私の答えを待ってくれる。


「……私以外の……例えば三栖斗――霧男や、遊び子には黙っていてくれますか?」

「当然です。私も当事者でなければこんな事お話しませんわ」


 その答えを聞いて、深呼吸をした。――それから「お願いします」と返事をした。

 立ち話もなんですから、とすぐ傍の椅子に座るようすすめられる。そこにゆっくりと座ると、机を挟んだ向かいではなく隣に縁切りさんが座った。


「橘さんのお父様の方の――橘さんにとっておじい様に当たる方が、お若いうちに行方不明か何かになっていらっしゃいませんか?」

「え、そういえば……お母さんがそんな事を言ってたような……?」

「結論から申し上げますと、その方は人間ではありません。その方があなたのおばあ様と恋に落ち、生まれたのがあなたのお父様です」