自分の出番が終わり、部屋の外に出て三栖斗と一緒に映らないよう待機していると「何してるのアンタ達?」と聞き慣れた声がした。


「銀河」

「先輩」

「何か凄いことしてるけど大丈夫?」


 部屋にクラスメイトを入れている事らしい。問題ない、と三栖斗は答える。


「今日で私達の出番、終わりなんです。前もってみんなにも言ってあるんで、今後はもうちょっと部活にも行けると思います」

「ああ、余裕できたらでいいわよ。気にしないで。ウチはやることって言っても、看板作りと進行の練習くらいじゃない?」


 それよりも、と先輩は声を潜める。


「自主制作映画ってそれは一体なんの役なの?」


 オールバックにスーツの男と、毛皮のコートに大きなアクセサリーをジャラジャラつけたセレブっぽい巻き髪の女。

 私たちは顔を見合わせ、答えた。


「銀河、それはネタバレになる」

「や、私たちの場合大してネタバレにならないけど。……でも秘密です」

「なにそれ~。いいよ、当日の楽しみにしておく」

「ところでわざわざここまで何の用だったんだ?」

「あ、そうそう」


 先輩は私の方を見てポン、と手を叩いた。


「縁切りがね、橘さんと話したい事があるって」

「縁切りさんが?」


 三栖斗も意外そうに「へえ」と相槌を打つ。

 クラスでの活動が終わったら、旧図書室に来てほしいとの伝言を預かってきたらしい。


「わかりました。じゃあ、そうします」

「うん。よろしくね。じゃあ私はこれで~」


 先輩は慣れた足取りで霧の廊下の向こうへ消えていった。

 それとほぼ同時に、三栖斗の部屋から撮影チームが出てくる。


「終わり終わりー! みんな片付けて帰るぞー」


 ここでの撮影も順調だったらしい。「結局ここ、人いないし鍵開いてたけど何の部屋だったんだろうな?」と首を傾げながら視界が悪い中一列になって歩いていく。


「戻るか」

「そうだね」


 私も実はちょっと慣れてきたかもしれない。

 ああ、そっちは元の場所に戻っちゃうよ、と思いながらクラスメイト達の後ろをついて行って一応一緒に迷子になる。

 部活棟を出る頃には、霧はだいぶ薄くなっていた。