「それでさ、今2人はどんな感じなの」


 この日は校長室での撮影日だった。けれど今は予定外の来客中のようで、私たちは教室で衣装のまま待機をしている。

 別のシーンで使う小道具を作りながらクラスメイトの女子が訊ねる。

 どんな感じって? とわかりながらも作業の手を止めずに聞き返すと「決まってるじゃん」とその子が言った。


「私たち5組はだいたいみんな佐古くんとの仲を応援してるよ。っていうか佐古くんあんなにイケメンなのになぜか誰も好きだって女子がいないからライバルがいないの奇跡なんだよ!?」


 それは、ある日突然クラスの一員になって間もなくあんな事になったから誰かが惚れる時間も何もなかったのでは……と邪推する。

 逆に、1年の子とはどうなのよ? と訊かれ、少し考える。弘則とは「みんなが気を遣わないように、時間が経つまで内緒にしておこう」という話になっている。過去の話を掘り起こしてもしょうがない、という時期になるまで待つのだ。

 だから、はぐらかす。


「もー。みんなが期待してるような事は特に何にもないってば」

「ふーーん?」


 その時、ガラガラという音を立てて教室のドアが開かれ、機材を持った撮影チームが入ってきた。


「おーい。校長室空いたって! みんな準備してー」


 校長室にクラス全員は入れない。カメラに映る予定のメンバーと、最低限の撮影メンバーだけで移動をする。すれ違う生徒たちが「なんだなんだ」と私たちの格好を見て振り返る。

 中でも注目されていたのは三栖斗だった。社長っぽくという事で、借り物のスーツを着て、髪型はオールバックにセットしてある。私から見てもまあ、注目されるのはわかる。

 一言で言って……これは卑怯だ。


 職員室の中を通って校長室へ入ると、椅子に座っていた校長先生は立ち上がり「私も見学していていいかい?」とそわそわしながらカメラの後ろにまわった。

 どうも2時間サスペンスドラマとか、推理小説とか、そういうのが好きらしい。


 まずは、朝食の時間になっても起きてこない夫の様子を見に来た私が、私室の扉を開けて悲鳴をあげるカットを撮影する。
「カット」の声とともに、職員室内から笑い声が聞こえてきたので「うるさくてすいません」と頭を下げた。

 続いて、館に来ているゲスト達がその悲鳴を聞いて次々と部屋にやって来るカット。これも順調。

 その撮影の間に、校長室の中央では机やソファーがカメラ外に移動され、三栖斗がワイングラスを片手に持たされたまま口元に一筋のケチャップを塗られていた。……アイツが大人しく顔を汚されている様子がなんだか笑える。


「奥さん、笑わないで下さいよ」


 三栖斗が顔を動かさずに、横目で私を見て笑った。


「奥さんって呼ばないで下さい」

「佐古くん、口動かさないで」

「すまない」


 ケチャップ血のりを付け終わり、次は苦しそうに床に倒れるシーンを撮る。

 特に不自然さもなく、一発OKが出る演技。三栖斗は指示によって起き上がれず、そのまま事件現場での各シーンを撮っていく。

 細かくカットを繰り返し、校長室での撮影はほぼNGもなく終わった。