早速、翌日から準備が始まった。

 衣装はほぼ既製品や演劇部からのレンタル。血のりとなるケチャップや小道具などを買いに行ったチームが戻ってくるまで、私たちは台本の読み合わせをしていた。


「校長室撮影OKもらえたー!」


 物語の舞台となる洋館は、それらしき場所を借りるとなるとクラスの予算では足りず、校内でイメージに近い場所を探して撮影の許可をとってまわっていた。

 社長の部屋として、校長室。推理ショーの場所となる書斎として旧図書室。その他、調理室、音楽室など……。


「よし、あとは夫人が籠城する部屋の確保で最後だな」

「どうする? それっぽい部屋、校長室しかないよな。社長室に引きこもらせる?」

「うーん、できれば別の部屋がいいよなぁ。ストーリー的に」


 その会話が、私たちの耳にも入って来る。

 他人事ではないので、自然と読み合わせを止めて輪の中に入っていった。


「ないなら仕方ないんじゃないかな? 高級家具があるセレブっぽい部屋でしょ?」


 ……あ。と思ったけど、すぐにその考えを捨てる。

 あそこにみんなを連れてくわけにもいかない。


「――部活棟に」


 その声に、嘘でしょ……と驚愕する。

 発言したのが三栖斗だったからだ。


「どこだったか忘れたがそんな部屋があった気がする」

「マジで? 行こうぜ。案内して!」


 男子数名が廊下に出るのを三栖斗が後ろからゆっくりと追いかける。

 ちょっとちょっと! と私はその肩を掴んで止めた。


「大丈夫なの?」

「心配ない。霧の中だ、適当にぐるぐると迷わせてから案内する」

「それ、撮影の時もやるの?」

「当然」


 ちょっとしたイタズラ心らしい。撮影が終わった後で、その部屋が見つからないと騒がれるところまで想定済みのようだ。

 そんな風に騒がれたって痛くもかゆくもない、そんな顔をしていた。


 その後、ずいぶん経ってから戻って来た男子たちは、満足そうに「あそこならぴったり!」と親指を立てたのだった。