「あ、戸締り私がしていくから先帰っていいよ」


 片付けを終え、みんなで帰ろうというところで銀河先輩がそう言って部室に残った。


「そう? じゃあお先ー。お疲れ」

「お疲れ様っすー」


 他の部員は、よくある事なのでそのまま帰ろうとする。

 けれど三栖斗と私は銀河先輩の視線に気づき、足を止めた。


「あ、私銀河先輩に訊きたいことがあって」

「なんだ雛芽もか? 私もなんだ」

「え、なに君たち。どうしたの突然」


 羽野川くんが気味悪いなあと言いながら私たち3人を見るが、継野先輩は“むしろ銀河から用事があるんだな”と察したらしく、他のメンバーと肩を組んで帰っていった。

 扉が閉められると同時に、銀河先輩は私を席に座るよう促す。

 観念して私がいつも自分が座っている席に戻り、三栖斗もいつも通り隣に座った。


「……で、何があったわけ?」

「その前に訊きたいんですけど、2人には何が見えてるんですか?」


 私は恐る恐る質問を返す。

 答えたのは三栖斗だった。


「相手がいないまま弘則くんの手首に結ばれていた赤の縁のリボンが、消えていた」

「そんなの見えてたんですか……」

「さ、今度は橘さんの番よ。何があったの」


 2人の顔を見比べる。好奇心やからかうような感じではなく、心配している真剣な表情だ。


「……弘則と、恋人になるってビジョンが私の中にはなくて、夏休みに……それを伝えました」

「……つまり、フッたって事?」


 銀河先輩がズイッと机に手をついて乗り出す。

 私は目を泳がせながら、こくりと頷いた。


「なーるほどねぇ。三栖斗、良かったじゃない」

「あっ!? 待って待って、勘違いしないで欲しいんだけど、あくまで弘則とあなたの問題は別だからね!? どっちかが好きだからどっちかをフッたっていうのとは違うから!」


 ふむ、といつものように三栖斗は腕を組み、深く息を吐いた。


「彼はすごいな。全く態度に出ていなかった」

「……うん」

「そして、自分の中で気持ちの整理もできている。赤の縁が消えたという事は、そういう事だ。夏休みのいつごろかは知らないが、普通はそんなに物分かりがよくない」


 そして「そうか……」と自分の中で噛みしめるように短いひとり言を呟く。

 そのまま何かを考えこむように三栖斗は黙ってしまい、しばらくの沈黙が流れる。

 ふと、私は思い出して話題を変えた。

「そういえば、銀河先輩は引退したらどうするんですか?」