8月――……。今は午後6時だけどまだ全然明るく、そして暑い。

 下駄の音があちこちでカラコロと鳴り、駅前には人がいつも以上に溢れかえっている。

 改札を通って待ち合わせの相手を探していると「雛芽ー!」と私を呼ぶ声が聞こえた。


「こっちこっち!」

「怜音! 晴香! ごめんお待たせ」

「まだ時間前だし大丈夫! あとは希美だけだね」


 2人とも浴衣姿がとても似合ってる。

 今日は友達4人でこの近くで開催されている夏祭りに来た。特設ステージでのライブを見たり、屋台をまわったりして、それから花火を見て帰る。

 最後の1人が合流して、私たちは会場まで歩き出した。人の流れに乗っていけば自然と会場に着く。


「部活、雛芽のところは合宿しないの?」

「あー、うん。ウチは夏休みの間は活動ないなぁ」

「私明後日から合宿だよー。去年キツかったから憂鬱」


 あれこれと色んな事を喋りながら屋台を見て回る。

 クレープやりんごあめ、基本的にみんな甘いものに目がない。

 ステージのある広場に着いて、お互いの買ったものを少しずつつまみながらゲストバンドの演奏を聴いていると、ふいに肩をとんとんと叩かれた。


「こんばんは」

「継野先輩! ……と羽野川くん! それに弘則!?」

「ちわ」

「わあ、雛ちゃん浴衣可愛いね」


 どうやら今日は昼間から3人でいつものホビーショップに行っていたらしい。


「また二学期になったら文化祭でやるゲームも相談しないとなぁ」

「はい」

「じゃ、そろそろ花火始まるし俺たちも移動するから。また休み明けにね、橘さん」


 先輩が手を振り、人混みの中に消えていく。

 羽野川くんと弘則もそれについていくのを見送って、私は後ろを振りいた。


「ごめんみんな。今の、部活のメンバー……で……」


 そこには誰もいない。

 人混みで見えなくなったのかと思ってキョロキョロと見渡してみるけどやっぱりいない。

 とりあえず電話を――とスマホを取り出すと、怜音からのメッセージが画面に表示されていた。


<ごめんね雛芽! 晴香と希美が「2人にしてあげよ」って言うから私たち消えまーす。がんばれ>