静かな世界で、遠くに鈴の音のようなものが聞こえ、窓から外の様子を伺う。

 暗闇の中遠くの方に、今乗っているバスと同じように提灯の灯りを揺らす乗り物が流れるように走っているのが見える。

 向かう先は私たちと逆方向。

 怖いけどあやしくもやさしい光の流れは美しく、なつかしさのようなものすら感じて、しばらく黙って眺めてしまった。


「完全予約制だから、帰りもちゃんと予約とってあるよ。安心して」

「帰れなかったら怒ってますよ」


 なんとなく、そんな事はしないのをわかってる。

 でも私だけ置いてきぼりの状況に頬を膨らませるくらいはしてもいいと思う。


「バケモノも人間も、いろんな奴らが集まる世界があってね。このバスはそこへ向かってるのよ」

「バケモノも、人間も……」

「人目を気にせず好きに喋れるわ」


 バッ、と外の景色が明るくなり、暗闇を抜けたとわかる。

 再び窓の外を見ると、そこは城下町の観光地のように木造の古い建物が並ぶ賑やかな通りだった。そこを横目に通り過ぎ、しばらく進んでバスは停まる。

 バスの外を歩く人々はみんな和装で、どの人も人間に見えるけど……。


「まあ人間の方が圧倒的に少ないけどね。基本、ここに住んでるわけじゃないし。住んでても寿命が私たちに比べて短すぎて」


 運転手に切符を渡しながら先輩がそう言った。

 運転手は切符を3回カチカチカチと何かの道具で挟むと、スイッチを操作して乗降口を開けた。

 バスを降りるなり先輩はくるりと振り返ってお腹に手を当て「ねえ私お腹空いた」と言う。


「来て早々だけど何か食べようよ」

「私は構わないが……」

「私も、食べられますけど……でも」


 三栖斗を見上げる。昨日の甘味料の話を思い出していた。

 ここの世界の物を食べて大丈夫なのかといった視線でじっと見ると、彼は「ああ」と気が付いたように手をぽんと叩いた。


「君の姿をハッキリ思い浮かべられる私が繋がっているんだ。そもそもああいう現象が起きないように調整しよう。あと、黄泉戸喫(よもつへぐい)の心配をしているならその必要もない。ここは黄泉の国ではないからな」

「ヨモツヘグイ?」

「黄泉の国で食べ物を口にすると、黄泉の住人になるというやつよ。ここは人間以外も何でもかんでもやって来る変な観光地だと思ってれば大体あってるからそれでいいわ」


 へえ、ヨモツヘグイ……そんなのがあるんだ。

 お店選びは銀河先輩に任せ、人通りのより多い大きな通りへ私たちは向かった。