次の日はあいにくの雨だった。

 体育祭の日の天気しか気にしてなくて、全然今日の予報を見てなかった。窓から外の様子を見ながら朝ごはんを食べる。

 傘をさしても濡れるなあこれは。こんな中、出かけるのかと思うと少し憂鬱な気分になる。


「行ってきまーす」


 シンプルなシャツと、クロップドパンツで傘を腕に引っ掛けてエレベーターへ向かう。外に出ると、雨音はうるさいくらい。

 1階に下り、外へ出て傘をさしひとつだけため息を吐いて、私は学校へと向かった。








 雨のせいか、霧に包まれた学校はものすごく自然で違和感がない。

 これはあいつが出している霧なのか、自然に発生している霧なのか。全くわからない。

 校門の外からそんなことを考えながらぼんやり校舎を眺めていると、部活棟の方から傘をさしてこちらへ歩いてくる人影があった。


「橘さーん! おはよー」


 いつも通りの制服姿の銀河先輩だ。


「おはようございます。……先輩私、今日外へ出かけるって事しか頭になくて私服で来ちゃったんですけど」

「ん? ああ、そっか入りづらいよね。ま、いいよどうせ着替えるし。今日全然人いないからササっと部活棟行っちゃお」

「着替え???」

「ほらほら」


 後ろにまわって背中を軽くトントンと押され、早歩きで部活棟へそのまま向かう。

 部活棟の入り口で来客用のスリッパに履き替え、銀河先輩に言われて靴は手に持ったまま中へ入った。

 手招きされて先輩についていくと、そこは例の部屋ではなく私たちの部室だった。

 いつもゲームが広げられている机の上には、和柄の布やかんざしが並べられている。

 シャーッと勢いよくカーテンを閉め、銀河先輩が呆然と立ち尽くす私の方を振り向いた。


「私が手伝うから、ちゃっちゃと着替えましょ」

「先輩、あの……なんで、これ……着物?」

「まあまあ、とにかく脱いで」


 先輩は慣れた手つきでテキパキと着付けをする。あれよあれよという間に髪までまとめられ、どこから出してきたのか履いてきた靴の代わりに草履を手に持たされた。


「先輩、色々言いたいことはあるんですけど……着物こんな雨の日じゃ濡らしちゃいますって」

「平気平気。今から行く所雨降ってないから」


 先輩がパチンと指を鳴らして、制服がギュルギュルとねじれた。かと思うと次の瞬間には手品のようにパッと着物姿になっていた。

 けれどその姿は、いつもの銀河先輩ではなく――緑色の瞳に胸の辺りまで伸びた白髪を緩く首のあたりで結んで垂らしている、中性的な顔をした美人だった。

 着物は男性のものだけど、え? どういうこと?


「……それが銀河先輩の本当の姿なんですか?」

「本当の姿は忘れちゃったけど、これが私が知り合いに一番覚えられてる顔かな。自分でこういう感じのになりたいって思ってそういうのに変身してるんだけど、その時に合わせて男にも女にもなるよ」

「え? じゃあ元々はどっちなんですか?」

「それも忘れた」


 あははと先輩は笑う。さっき着付けしてもらったんだけど……私もあまり考えないようにしよう。

 それにしても私はともかく、先輩は街を歩いてたらものすごく目立ちそう。この格好でどこへ行くんだろう?