「やったーーー2位だーーー!」

「1組に負ぁけぇたぁぁぁ~~~!!!」


 クラス全員リレーで上位を獲得できず、僅差だった1組に学年1位を持っていかれてクラスメイト達は悔しがったり、とれると思っていなかった2位に喜んだり賑やかだった。

 ぞろぞろと教室へ生徒たちが歩いていく。ホームルームをしてから今日は解散だ。

 私も怜音と並んでみんなと一緒に教室へ戻る。

 弘則からメッセージが来ることは、なかった。


「心の準備ができればあっちから送って来るだろう。気長に待ってやれ」

「ほんとどういう立場なの三栖斗くんって」


 いつの間にかひょっこり隣に並んだ三栖斗に対し、怜音が戸惑っている。そうだよね、私もそれがわかんないんだ。


「付き合ってって面と向かって言われたら、なんて答えるの?」

「うーん……それなんだけど」


 今は誰の事もそういう意味では好きじゃない。

 お友達から、なんて言葉があるけれど、私の立場はそれを恐らく許さない。

 それを理解している私に気づいて、三栖斗が満足そうに頷いた。怜音が首をひねる。


「え? なになに?」

「ちょっと後で話があるんだけど」

「いいだろう。部活棟の“例の部屋”でいいか」

「わかった」


 今日はどこの部活も休みとなっている。運動部が手分けして、貸し出した道具の片付けなどを行うからそれがスムーズに行えるように、用事のない生徒は帰るようにと言われているのだ。

 だから放課後、部活棟には人気(ひとけ)がなくなる。怜音が心配そうに見ていたけど、大丈夫だからと言って笑ってみせた。







 ホームルームが終わり、少し時間を置いてから部活棟に向かう。

 部活棟の中だけピンポイントで霧に包まれていて、器用に調整するものだと感心した。もう慣れてしまったのか、気味悪さがない。

 視界の悪さにもたもたと歩いていると、前方から「こっちだ」と声がした。

 その後で手をとられ、優しく引っ張って誘導される。

 4月以来に見る、霧の時にしか現れない部屋がそこにあった。


「さ。中へ」

「……お邪魔します」


 扉を閉めようとして、廊下の霧がすでに晴れようとしているのがわかった。霧がない間はこの部屋は誰にも見つからない。……今扉を閉めれば、もう誰も入ってこない。

 例えばまた前みたいに体が消えかけたとして、助けてくれる弘則は今いない。ごくりと唾を飲み込み、意を決して扉を閉めた。