昼休みの間、弘則に何かメッセージを送るべきかと思ったけど……文字を打っては消し、文字を打っては消しのくり返しで結局何もできなかった。

 弘則からも、メッセージはなかった。

 怜音と話をしながらただスマホの画面を見つめて、彼が今何を思っているのか――ただ、心配になる。私がこんなに苦しいんだ、弘則だってきっと。


「雛芽、午後の競技がはじまるよ。……一緒に行こう?」

「うん。ありがとね、怜音」

「いっぱいいっぱいになる前にいつでも言うんだよ?」


 弘則と同じような事言ってる。

 私は頷き、怜音と一緒に教室へお弁当箱を置きに行く。その途中、クラスメイトと何回もすれ違ったし絡むように声をかけてくる人もいたけど、怜音の力が凄かった。


「雛芽にそんなのわかるわけないじゃん。もう、それより午後のムカデ競争、田中くん頑張ってよ!? 今1組と僅差なんだから!」


 そうだよ! 点とってよ!? と私も便乗する。

 すると彼は自分に役割が残っている事を思い出し、今は競技に集中するべきだと納得したみたいで「任せとけ」と言ってグラウンドへ向かった。


 教室は誰も残っておらずしんとしていて、みんなもうグラウンドに集まっているんだと窓から賑やかな外を眺め、机のフックに保冷バッグを引っ掛けた。

 体育祭が終わるまでか、終わってからかはわからないけど……弘則の気持ちを正面からぶつけられる時がきっとさっきみたいにやって来る。

 そこからは本当に、今まで通りの姉と弟みたいな気持ちではいられない。休日にいきなり出かけようって誘われたって意識してしまうだろうし、今の私にその感情がないのに誘いに乗って出かけて期待させてしまうんじゃないかと考えると……きっと簡単にはイエスと言えなくなる。

 ただ楽しく遊ぶのは好きなのに、弘則の事は好きだけどそういう風には見てないっていうだけで、これまでの関係が続けられないのを理解してため息が出る。

 でも何も知らず……弘則の気持ちを知らずにずっと過ごしていたなら、私は気楽だっただろうけど、じゃあ弘則はそれで?

 ずっと内に秘めていて苦しくないだなんて、弘則にとっても前の方が良かっただなんてそんな事は思わない。変わるべくして、変わっただけのこと。


「行こう、雛芽」

「うん」


 ぶつかってくるなら、私も覚悟を決める。