――6月。

 あれから特別変わった出来事もなく、三栖斗が時々ちょっかいをかけてくる以外は平穏な日々を過ごしている。

 そして今日は――……


「体育祭! 学年1位とるぞーーー!!」

「「うおおおおーっ」」


 そう、体育祭。

 私は運動は得意でも苦手でもなくて、借り物競争とクラス全員対抗リレーの2つに出る。

 この借り物競争、去年は出てなかったんだけど“昨日と一昨日の夕飯を覚えてる人”や“ニワトリのモノマネが上手い人”なんていう変なお題が多くてすごく盛り上がったのを覚えてる。

 その話をしたら「面白そうだね」と言って、弘則も借り物競争に参加を希望したみたい。


「佐古ー! そろそろ準備ー!」


 クラスの待機スペースに男子数人がやってきて、三栖斗を呼ぶ。

 あ、騎馬戦に出るんだっけ。しっかり男子高生やってるじゃん……。


「うちのクラス強いよ~。機動力がすごいのなんの」


 怜音がひょっこり隣に現れて私にくっつく。


「へえ」

「佐古くんが上に乗るポジションなんだけどね、あんなに背が高いのにすっごく軽いんだって」

「は? 許せん、女子の敵」

「同意」


 今日を迎えるまで、人のいないところであいつの体が霧になるところは何度か見たけれど、体が霧でできてて……それで軽いって事なのかな。

 玉入れが終わり、騎馬戦の選手が入場する。まずは1年生。

 それぞれのハチマキを奪い合って、3分後に持っていた本数の分だけ得点になる。自分のクラスのが奪われたら、それまでゲットしたハチマキは獲った相手に譲って脱落。

 1学年7クラスで、1クラスに2チームずつ出場するので、はじめはあちこちでゴチャゴチャと戦っているけど、後半になってくるとにらみ合いやポイントの高いチームが狙われるなどしてなかなかに熱い。


 試合終了のホイッスルが鳴り、残った5チームの得点が発表され、1年生は退場していった。

 次はいよいよ2年生だ。


「がんばれーーーーーーっ!!」


 怜音が大声で声援を送る。周りのクラスメイトもそれぞれに叫んだ。

 ピィーーーーッ! と大きな音でホイッスルが鳴り、試合が始まる。


 うちのクラスは……わあ本当だ。どっちのチームもすごくいい勝負してる。

 三栖斗が攻撃を避けながら、他のクラスのハチマキをしゅるりと解くようにして奪う。しかしその隙を狙って後ろに別のチームが迫る。

 しかし後ろに目があるかのように、そちらも見ずにスイッと体を傾けて絶妙なタイミングで攻撃を避ける。人間業じゃない。……あ、人間じゃなかったわ。

 大きく動いているのに騎馬が崩れない。下の3人が体重や重心の負担を感じている様子が全く感じられない。


 そして後半は本当に熱かった。チーム数が減り、お互いの位置が把握できるようになってからは、乱戦でどさくさに紛れてハチマキを取りに行けない分ポイントを取るのが難しくなる。

 にらみ合い、それでもリスクを背負って勝負をかけに行くチーム。ある程度のポイントを得た後は逃げに徹するチーム。三栖斗のチームは後者のタイプだ。危なっかしさもない。

 あっという間に3分が経過して笛の音が響く。

 うちのクラスは1チーム脱落したけど、三栖斗のチームが4本獲得していた。