長かった一週間が終わり、土曜日の朝がやってきた。これで一息つける、と思いながらゆっくり二度寝したのち顔を洗い、歯を磨く。

 特に誰とも約束してないけど、どこかへ出かけてみようかな? と思っていたら、チャイムが鳴ってお母さんが返事をしながら玄関へ向かう。


「あら、弘くん」

「おはようございます」


 え? 弘則?

 部屋着にしている中学の時のジャージのまま、玄関に顔を出す。本当だ、弘則だ。


「あっ、雛ちゃんおはよう。急にごめんね、ゆっくりしてたよね」

「ううん、いいんだけど……どうかした?」


 水色のパーカーにボディバッグをかけて、いつも通り寝癖をぴょこんと立てた弘則は、どうやら今から出かけるみたいだった。


「部室にあるようなゲームのお店に行ったりぶらぶらしようかなって思ってるんだけど、もしよかったら雛ちゃんもどうかなって」

「ああ、私も適当にお店見ながら歩こうかなって思ってたの。着替えるから待っててくれる?」

「うん」


 もうお昼も近いから、お腹すいたけど朝ごはんは抜いちゃおう。クローゼットの中から、いつも通りの休日の組み合わせで服を選んでポイポイと床に放り投げ、急いで着替える。

 隣の部屋ではお母さんが弘則にお茶を出してくれているらしく「待たせてごめんね」「いきなりお邪魔したのはこっちなので」という声が聞こえてくる。


「雛芽、早くしなさい」

「わかってるってば!」

「ゆっくりでいいよ雛ちゃん」


 中学だった時も、こうやって当日の気分で誘いに行って遊ぶことがあったっけ。久しぶりで、懐かしい気分だな。


「弘くん背が伸びたね。しばらく見てなかったからおばさんびっくりしちゃった」
「去年から6cm伸びました」


 どうせまだ伸びるから、と制服は大きめのものを注文したらしい。そういえば袖が少し長かったような。

 着替え終わり、2人のいる部屋は通らず洗面所へ行ってジャージを洗濯機に放り込み、髪を整えてからリビングへ向かった。


「おまたせ」

「ううん。おばさん、ごちそうさまでした。行ってきます」

「気を付けてね」


 2人でマンションを出て、駅まで歩いていく。

 電車の時間を確認する、と言って弘則がスマホをカバンから取り出したので「あっ」と声が出た。


「スマホ持てるようになったんだね」

「あ、うん。中2の秋くらいから自分のやつ持ってるんだ」


 一昨年か。受験で大変だろうなって思ってあまり遊びに誘わなかった時期だから、知らなかった。


「じゃあ連絡先交換しておこうよ」

「うん」


 トークアプリを起動して、フレンド申請用のQRコードを読み取る。しばらくして、青く半透明なサイコロのアイコンがフレンド一覧に追加された。